Saturday, September 10, 2016

日本語の”奨学金”と英語の”Scholarship"の違いについて

私は普通、アメリカで心理と宗教についてのコンサルタントとして生活を立てていますが、多芸なこともあって、それなりの副業をもしています。例えば、大学時代にポケットマネー欲しさに始めた数学のチューターは、今でも近所の子供の数学の悩み解消の為の指導という副業として活かしています。それだけでは退屈なので、アメリカの大学や大学院で学ぶことを希望する日本人(たまに韓国人、中国人、マレーシア人など)を対象にした、 志願書類の一つである入学動機や応募する大学や大学院のプログラムで学ぶ意義などを書く志願エッセーの校正、添削、アドバイスなどをもやっています。

先日、ある日本人応募者の志願動機のエッセーを添削してたら、その人の経歴に触れている部分で、日本の大学に通っていた時は奨学金を得ていたということを表現するのに、”I went to (その人が卒業した大学の名前  ) university with scholarship”、と書いてあり、ああ、典型的な日本語からの直訳表現だから、”I went to  OX university on scholarship” としたほうがより”英語的”だし、それに、  “I graduated from OX university with a bachelor’s degree in XYZ,  as I was on ABC scholarship”、というように、ただ大学へ通ったというよりも、卒業し、どのようなことを専門としたのかを示すほうがいい、などと思いながら、添削しようとしたのですが、日本語臭い英語表現よりも、その人が言う”scholarship”という言葉に引っかかりました。そこで、このまま私から勝手に添削を始めるよりも、先ず、スカイプでその人がいう”scholarship”について質問してみました。すると、その人が言う”奨学金”とは日本学生支援機構からの”奨学金”という”名目”の”ローン”だと判明しました。

つまり、奨学金とはいえ、融資、借金なので、今でもその人は毎月定められた額を返済に充てているとのことです。ということは、これを英語で表現する際、scholarship、という言葉は不適切だけでなく、誤解を醸し出します。よって、その人に、”あなたは、自分が大学にいけたのは奨学金を得たからだと表現したいのでしょうが、その奨学金とは実質的にはローンであり、わざわざ借金してまでも大学に行ったなどとアメリカの大学院の選考者に言いたいですか?”、と問うと、”ええ、どういうことでしょうか?”、と言われたので、”つまり、あなたが大学教育を受けることができたのはローンのお陰であり、それがたとえ日本では’奨学金’という名前で呼ばれていても、正しい英語の表現にするには’ローン’としなければなりません。つまり、”scholarship”という単語をあなたの志願エッセーに使うと、正直でないことになります。正しく表現するにはloan”という言葉を使わねばなりません。それから、この場合、”with ”ではなく” on”という表現のほうが英語らしい表現です。だから、’I went to OX university with scholarship’  という表現は誤解を招くので、   ‘I went OX university on student loan’とするべきです”、とアドバイスしました。すると、その人、こうした違いを知らなかったようで、ただ辞書に奨学金は”scholarship”と書いてあったから、そして、”~でもって”という表現をどうしたらいいか悩んだあげく”with”がいいと思ったので、”I went to OX university with scholarship"と書い方をしたのだと、言いました。まあ、通用しないわけではないですが、やはり、競争の激しい大学院の志願書類の一つですからより、ただ通用すればいい、というのではなく、より英語らしい含みのある表現にするように万全を期するに越したことはありません。勿論、アメリカの大学や大学院の選考者達は、こうしたところをもちゃんとチェックし、判断の基準にします。

それから、scholarship   loanの違いについて理解できたところで、どうしてわざわざ借金してまでもその大学に通ったのか、あえて選考者に言う必要があるのか、あるとすれば、どのような理由からか、そして、その理由は自分が選考されることにとって本当に有利なことなのか、更に考えていただき、その結果、更に添削を進めることにしました。2日後、その人は、”やはり、超一流大学ではないので、借金抱えてまでその大学に行ったなんて誇らしげにはいえませんね、と笑いながら”、とスカイプで返答してきたので、”おっしゃる通りですね。では、’借金してまでその大学へ通った’という表現なんかよりも、その大学で学んだことについてより詳しく書き、この経験が今志願するアメリカの大学院での研究と終了後のあなた自身の展望にどのように活かせるかについて強調するとよりよい志願エッセーになりますよ”とアドバイスしました。すると、その人も納得し、それから一週間後に、書き改めた”ゲラ”をメールしてきたので、更に少し添削し、お互い納得のいく志願エッセーとして仕上げました。

確かに、日本語の”奨学金”という言葉にはいい響きがあり、”ローン”とか”借金”という言葉よりまっしなものです。しかし、日本学生支援機構などの日本の団体からの”奨学金”とは実質的には返済を要求されるローンが多く、英語においてはこの区別が明確なので、日本人がいう”奨学金”を英訳する時に注意しないといけません。勿論、平気でうそ、はったりを”ばれなければいい”という態度でもって書ける人にとってこうした言葉の問題はあまり関係ないことでしょうが。。。


翻訳や通訳をする上で、言葉の選択にはとても気を使います。できるだけ日本語くさい直訳から英語らしい表現へと洗練させることも大切ですが、こうした日米の間での”奨学金”という言葉の背後にある違いのようなことについても正しく、混乱や誤解を招くことがないように表現し、伝えられるようにすることも大切です。でないと、故意に”うそ”をついた訳ではなくても、結局は不正直な表現となってしまいかねませんから。そういった意味でも、辞書や翻訳機に頼ることは危険です。しっかりと自分の頭で考えながら、日英両語の一つ一つの言葉の背後にある文化的、心理的ニュアンスなどにも気を配りながら、つまり、マインドフルでないと、翻訳や通訳というか、本当の意味での言葉が違う異文化間の架け橋とはなれません。勿論、これは英語だけについてではなく、すべての外国語についても然りなのです。

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